熊本県、天草地方に宿泊する宿を探しているうちにこの記事にたどり着いた皆さん。おめでとうございます。優勝です。
私は海に近い地域を旅するとき、宿泊する宿は海鮮料理がすごく美味しそうな宿か、近い場所に絶品海鮮料理を提供してくれる店がある宿を選ぶ。
世の中に数多ある「この宿の料理がすごい」系の旅館、ホテル、民宿に対し、大手メディアや口コミサイトの投票によってそれぞれの「すごい宿」を選出して掲載し、その地方に宿泊する人たちがその情報を参考にしている。しかし私には必要ない。そんなものがなくても探し出せるから。ありがとう私の宿探しシックスセンス。
そしてこの隠れキリシタンの里、天草市大江にある『平野屋旅館』は知る人ぞ知る名旅館だ。大手メディアや口コミサイトでももう100回くらい紹介されていることだろう。そんな有名旅館を今更……全然紹介している本やウェブサイトはなかった。まじかよ。やるわ。
おもてなしがうれしい、知る人ぞ知る天草の宿『平野屋旅館』
結論から言うと、天草に宿泊しておなか一杯、たらふく、腹がちぎれるくらいに海鮮を食べたい人は、平野屋旅館に泊まろう。
この旅館はすごい。間違いなく。
すごくて、すごい。うまく言葉で魅力を伝えるのは難しい。すごいところがたくさんあるから。この宿のすごさは実際に泊まってもらうしかないなあ、と言いたいが、私の稚拙な文章で伝わるかどうかわからないが、体験した出来事と感想を書いていこうと思う。
ざっくり説明すると、ここは良い宿として紹介されるときによくある、温泉をメインとした旅館ではない。風呂は普通の家庭用お風呂。しかし、とにかく宿泊時に出てくる料理の量とクオリティが常軌を逸している宿なのだ。異常と言ってもいいだろう。
さらに宿の女将の平石さん、ご主人のご対応とおもてなしが気持ちいい。どうしてこんなに素晴らしい宿に今まで泊まりに行かなかったのか。
料理がすごい旅館といえば、今までにも札幌のベッセルホテルカンパーナすすきのや笛吹市のひみね等を紹介してきた。のちに浜松の料理民宿ないとうも紹介予定。平野屋旅館それらの宿とは、一線を画していた。今まであんなにすごい晩ご飯を見たことがないし、今後も見られないんじゃないかと思う。それが平野屋旅館だ。1日1組限定のプランで、1泊2食付きで1人あたり13,650円(税込)。平日宿泊なら12,230円。観光地のちょっといい旅館ならこんなものだろうという宿泊料金だが、よく覚えていてほしい。
料理を体験する前に、まず旅館のおもてなしがとてもうれしかった。
宿に到着すると、受付のため旅館の隣の「辨(BEN)」というレストランに伺う。そこで笑顔なチャーミングな女将さんが出迎えてくれた。
女将さんは満面の笑みで長旅の私たちをねぎらってくれて、宿泊する部屋に案内してくれた。今回宿泊したのは先ほどの写真の本館ではなく、新しい離れの部屋だった。案内の際も女将さんは私たちの後ろを歩く。天草の夕暮れの町を見せてくれるためなのかなと勝手に思っていた。
部屋は既に温度調整されていて居心地がいい。広い部屋の中に大きなベッドが3台。ゆったり座れるイスと大きなテーブルがあり、くつろぐことができる。お風呂も既にお湯を張っていてくれていた。本当にありがたい。
和室に置かれた椅子とベッド。
エアコンをつけて温かくしてくれていただけでなく、ベッドの中自体も電気毛布で温めてくれていた。うれしい。
温泉はないが、自分たちが部屋に来るタイミングでお風呂を沸かしてくれていた。十分くつろげる綺麗で広いお風呂だった。
平野屋旅館のある天草地区は、海岸から見られる夕陽の景色がキレイだと有名。様々な場所で絶景の夕陽を見ることができる。天草夕陽八景の一つ、大ヶ瀬の夕陽を西平椿公園~農免道路近くの海岸から望むことができる。予約時の返信メールにもそのことが記載されていた。宿自体には直接関係のないことなのに、この情報があったから女将さんに西平椿公園以外にもいい夕景の浜の場所を教えてもらい、(この日は少し雲があって夕陽が隠れてしまったけど)波の音と共に美しい夕暮れを体験することができた。この時点で、平野屋旅館に宿泊する予定にしてよかったとしみじみ感じていた。
金庫の中で食べる、過去一番の衝撃的晩ご飯
晩ご飯はチェックイン時に訪れたレストラン「辨」でいただく。
宿のご主人に案内された席は明らかに雰囲気の違うレンガ調の個室。ご主人は「この部屋、金庫です。」と仰られていた。扉に付いたダイアル。尋常ではない扉の分厚さ。よく見るとマジで金庫だ。金庫の中でご飯を食べるの?
分厚い扉の奥に、ウェルカムな感じを滲ませているテーブルがある。動揺しつつも個室に入ると、とんでもない光景が待ち受けていた。
メインの晩ご飯は、史上最大の迫力だった。テーブル席の上に置かれている装花が立派だなあと思いよく見ると。活けられているのは花ではなく刺身の盛り合わせだった。
えっ?どういうこと?えっ?どういうこと?リアルに10回以上つぶやいてしまった。幅がすごい。高さがすごい。長い間、敵に苦しめられていた村を救ったあとの宴みたいなくらいの盛り具合だ。
この刺身の盛り合わせが、前情報があったにもかかわらず予想できない迫力だった。実際に見ると、写真の10倍は迫力がある。キハダマグロ、カツオ、クロムツ、シイラ、ブリ、イカ。すべてその日に仕入れた地元天草の新鮮な魚たちだ。これで2名分の量。もう一度言います。この刺身の盛り合わせは2名分の量です。4人でやっと食べきれるかという量。どうしてこんな量になったのだろう。テンション上がってきた。
ご主人、女将さんはニコニコされて「たくさん食べてくださ~い」と言う。私たちも思わず笑顔。さあ、天草の魚パーティの始まりだ。これから天草の魚を食べて、食べて、食べまくる。
刺身が丁寧に盛り付けられすぎて、どこから橋を付けていいのかわからない。
料理の品数も多い。たくさん出てくる。日本一だ。
金持ちの家の庭みたいな刺し盛に圧倒されて忘れてしまっていたが、普通の料理も数が多い。サービスでビール等のドリンクも1杯付けてくれた。
ヒオウギガイ、クルマエビ、フカ(サメ)の湯引きサラダ、お吸い物、おひたし。どれも美味しい。刺身があれだけあるが故に、安心する味だ。
最初から出ている料理に後から追加で、デカい焼き魚。デカい煮つけ。たっぷりのホカホカ白ご飯に、デザートまでついてくる。焼き魚はシイラ(マンビキ)。ご主人が料理を運んでくださるたびに、どんな魚の料理かをご親切に説明してくれる。その心遣いで料理もさらに美味しく感じられる。
煮付けも頭がドンと置かれる。メチャクチャ美味しい。大根もナスもレンコンもタケノコも人参も、大きいのに味が染みていて、すごく美味しい。野菜だけで豪華な一品料理として提供できる味。
ご飯もたんまり炊いてくれていた。刺身の盛り合わせを使って、自分だけのオリジナル海鮮丼も作ることができるぞ。(あとから、海鮮丼やっとけばよかった~とすごく後悔している。)
デザートには旅館のある大江地区のシンボルといえる花、ツバキをあしらった椿もちとコーヒーを出してくれた。コーヒーの器のセットは温められていて、気づかいを感じる。食後にうれしい、とっても優しい味だった。
料理の量、品数が多いだけではなく、何を食べてもめちゃくちゃ美味しい。それがこの旅館を選んでよかった本当の理由だ。量の多さのインパクトにはだんだん慣れてくるけれど、料理は口に運ぶたびに最後まで美味しいと思わされるので、ビビる。
魚は近くの漁協から朝仕入れたばかりの新鮮なもの。野菜類は天草の野菜や女将さんが育てた自家栽培のものが多く使われている。全部美味しい。刺身は肉厚だが、弾力のある魚は噛み切りやすいように切り込みを入れてくれていた。焼き魚や煮つけも食べやすいように、しかも見た目が映えるように包丁を入れてくれている。味付けはどれも丁寧。思いやりを感じる料理だった。
旅館のご夫婦からの心温まるおもてなしに、たくさんの美味しい料理。しかし晩御飯を食べ進めていくうちにただ一つだけ、ただ一つだけ残念な事象が発生する。それは、私たちの普通サイズの胃袋では、刺身の盛り合わせをすべて食べきることができないことだ。
これまでどんなに晩ご飯の量が多い旅館でも、なんとか一品も残すことなく食べきってきた。しかし、今回の料理だけはボリューミーすぎて、刺身や料理を少し残してしまった。食べながら「すみません……すみません……」と心で何度も懺悔をしたが、箸が止まってしまった。目の前にある本当にすごく美味しい料理を、食べることができないツラさはなかなか堪えがたい。料理を残してしまうくらいに多いという情報は事前に得ていたが、「そんなわけねーだろwww」と高をくくっていた自分を恥じる。
晩ご飯を残してしまったことを謝りながら女将さんに伝えると、いつものことなのか、変わらぬ笑顔でご対応してくれた。本当に申し訳ない。このブログを書いている今、平野屋旅館の料理を思い出していると、今の状態であの続きから食事を再開させてくれと切に思う。残したくないほど美味しい料理が、残してしまわないといけないくらいに出てくる。それが平野屋旅館だ。
食事をした「辮」はモダンな内装なのにどこか重厚な雰囲気のある店内。さらに奥には馬鹿デカい金庫があり食事ができる。元々この建物はなんだったのかと女将さんに尋ねると、元々JAの支所だった建物をリノベーションして店舗にしたとのこと。確かにそう言われると外観も、地方のJAにあるような雰囲気に感じてきた。非常に貴重な建築物の中で食事を経験することができるレストランだった。この情報はまったく知らなかったので、うれしい誤算だ。
作りがしっかりしていて、広くていい建物だな~と思ってたんだよ。
もちろん朝ご飯もすごい。ちなみに朝食はJAの元所長室の個室でいただいた。昨晩とは違う気分でご飯を食べられてうれしい。
朝からボリューム満点。色どり豊富だ。カナガシラというホウボウの仲間の煮付けを初めて食べたが、とっても美味しかった。
前日に残してしまった刺身の一部は、漬けになって再登場した。本当にありがたい。昨晩、腹がちぎれそうになくるらいに食べて、正直朝はお腹があまり空いていなかったのに、この朝ご飯はぺろりと食べきってしまった。
実はレストラン辯はランチの営業もしている。このランチも夕飯ほどではないがボリュームがある満足ランチらしいので、宿泊予定がない人もランチに利用するといいかもしれない。
宿泊した離れの建物の入り口は、綺麗に手入れされて花も活けられていて鮮やか。ご丁寧に見送って下さりチェックアウトして最後の最後の瞬間まで、清々しい気分でいられた。
ご主人、女将さんの人柄、素晴らしい料理、ステキなレストラン、綺麗な宿。これだけ素晴らしい体験をさせてくれて、1泊13,650円は破格だ。ほんまにありがとうございます。
天草観光にもバッチリの旅館
平野屋旅館は、「天草夕陽八景」での素晴らしい夕景だけでなく、天草にあるキリシタンの文化財にも抜群のアクセス地にある。
世界文化遺産に登録された『天草の崎津集落』に一番近い宿で、禁教期において仏教、神道、キリスト教が共存し、漁村特有の信仰形態を育んだ崎津集落にある『崎津諏訪神社 』や、内部が畳敷きになっている珍しい教会『崎津教会』に朝からすぐに訪れることができる。さらに宿のすぐ近くには、キリスト教解禁後、天草で最も早く造られた教会である隠れキリシタンの里『大江教会』もある。天草観光の拠点とするには、一番オススメの場所にある宿でもある。
あと集落にはネコがたくさんいる。どこを歩いていてもネコだらけ。ネコの町だ。
とにかく最初から最後まで楽しい気持ちになった宿の平野屋旅館。天草地方を旅するときにはぜひ宿泊してみてほしい。私も今回宿泊しなかった本館の様子も気になるし、またあの素晴らしい料理を味わいたいので、できるだけ早くまた泊まりに行くぞ!
そしてどうか、平野屋旅館に宿泊するときは、できるだけお腹を空かせて訪れよう。道中の食べ歩きは次の日にしよう。私のように、食べたいのに食べられないという後悔をしないために。
2022年1月訪問
「平野屋旅館」について
アクセス :九州自動車道松橋ICから車で2時間くらい
住所 :熊本県天草市天草町大江7327
参考WEB予約サイト:平野屋旅館<じゃらん予約>
公式サイト:https://hpdsp.jp/hiranoya/
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