芸術の里で、時を越え夢を伝え続ける『夢の家』【十日町市】

夢の家 宿

 新潟県十日町市は、周囲に広がる美しい棚田が注目の観光資源。今ではもう1つの目玉がある。それは「大地の芸術祭」越後妻有アートトリエンナーレ。これはアートで地域活性化をはかるイベントで、十日町を中心とした新潟県の南部にあたる越後妻有地域では永続的なアートの思想が共有され、様々な作品が展示されており人気を博している。

泊まれる芸術作品『夢の家』

 この一つ『夢の家』は古民家を再生した芸術作品だ。あわただしい現代生活の中で「自分自身と向き合うために、夢を見てほしい」との願いが込められた宿泊体験型作品。つまり泊まれる芸術作品だ。宿泊することで作品を直に体験し、その体験も含めて作品としてしまうのだ。あんまり詳しく書きすぎると、行ってからの楽しみがなくなると思うので、ほんの少しだけ感想を書いていく。

 十日町市の田んぼ地帯にぽつんと立っている古民家。それが夢の家。9月ごろから予約受付が始まり、毎年10月後半~11月前半ごろに宿泊をすることができる。事前に予約をしていれば、地元の係りの方が迎えてくれる。

夢の家

 家の中は、くつろぎやすく懐かしい感じがする。テーブルの上のコップは磁石の恵右に置かれており、コップの中のの水は磁力を帯びた特別な水だ。

夢の家

 夢の家は、旧ユーゴスラビア出身の作家マリーナ・アブラモヴィッチの作品として、築100 年を超える家を改修して、第一回大地の芸術祭(2000 年)に作られたもの。

 夢の家では夢を見るための準備として、夢を見るためのツナギに身を包み、夢を見るための棺で眠りにつく、夢を見て、記録し、後に続く人々へ伝えていく。

夢の家
夢の家

 部屋の名前、役割はすべて決まっていた。

夢を見るための準備

 夢の家で夢を見るには、様々な準備が必要とされる。その作業も作品の中の一部となっている。

 夢の家は風呂も特殊。銅製の浴槽に薬草を入れた風呂で身を清める。

夢の家
夢の家

 葉っぱの香りを感じながら、清らかな水で全身を流す。

夢の家

 寝る場所は寝返りをうちにくい狭い棺の中。小さい枕は硬い黒曜石。最初に見たとき笑ってしまった。

夢の家

 棺で寝る際の服装は、もじもじくんスタイルのピチピチ全身タイツの上から、ぶ厚いツナギを着る。部屋と同じ色の夢をみるためだ。これらすべての作法は浅い眠りで夢を見やすくするため。このツナギは全身に磁石が仕込まれており、自然のエネルギーを感じることで夢を見やすくする磁場を創り出す。よくわからないが、そういうことらしい。

夢の家
夢の家

 真っ暗な夜、部屋全体を照らす赤い色の光を浴びながら寝る。眠りを浅くするための工夫が色々あったけれど、一日中新潟県を走り回って疲れていたのもあり、爆睡してしまった。

夢の家

 起きたら枕元にある「夢の本」へ見た夢を書き込む事で自分と向き合い、のちに訪れる人々に伝える。この作業をすることで「夢の家」の作品に参加することになる。私はトランプの形をした兵団に追い掛け回される夢を見た。

 夢の家の宿泊者が見た夢や、マリーナ・アブラモヴィッチの作品や手記についてまとめられた「夢の本」は通販でも購入できる。


マリーナ・アブラモヴィッチ 夢の本

 赤く照らされる部屋以外にも、紫、緑、青色に照らされる部屋がある。それぞれの色に意味があって、見やすくなる夢も違うようだった。どの部屋で寝たいかは、(当時は)受付の時に他の宿泊者と話し合って決めた。

夢の家
夢の家
夢の家

 夢の家は他人と同泊になった。(計4 名まで)私の時は同泊者がイスラエルから来た彫刻家・学芸員夫婦と、原付きで千葉から来た現代美術マニアのスーパーおばさんだった。最後はみんなで夢の家の前で記念撮影をした。美術芸術好き同士で寝泊まりしながら触れ合えることも夢の家の醍醐味だ。
※公式HPを見ると2019年からは1日1組限定の宿泊になった様子。1泊33,000円。たっけえ~。

夢の家

 夢の家では作者であるマリーナの自伝映像をビデオで見ることができた。自傷的で過激なパフォーマンスアートが多い彼女の映像(特にRhythm0)は刺激的だった。見る人によってはショッキングな内容もあるので、気持ちの準備をしてリラックスしながら見たほうがいい。

芸術に興味さえあればOK

 芸術なんて縁がないし、楽しみ方がわからないよお~という人でも安心。夢の家を管理している近所のおばさんがマリーナについて色々説明してくれるので、現代美術を知らない人でも充分に楽しめる。宿泊後には運営の方が、周辺の小屋で展示している他の芸術家の芸術作品についても解説してくれた。

米との対話
ロビン・バッケン「米との対話」(2018年に公開終了)
米との対話
ロビン・バッケン「米との対話」(2018年に公開終了)
不老不死の薬

ジャネット・ローレンス「エリクシール/不老不死の薬」

 大地の芸術祭では、夢の家以外にも泊まれる芸術作品が多くある。興味の作品があれば泊ってみて、芸術祭の展示作品を見学して回ると楽しいだろう。

2015年9月訪問

「夢の家」について

住所   :新潟県十日町市松之山湯本643
公式サイト:http://www.tsumari-artfield.com/dreamhouse/


Casa BRUTUS(カーサ ブルータス) 2021年 9月号 [アートを巡る、この夏。] [雑誌]