現存する12天守の一つで国宝のお城、長野県松本市の松本城。雑誌やネットでよくある見に行きたい・行ってよかったお城ランキングの上位に常にある人気の城。いつか見に行きたいし、見に旅行するなら、どこに宿泊しようかと迷う人もいるだろう。実は家具や民芸好きの人たちがこっそり泊まっているのが『まるも(丸茂)旅館』だ。
好古家の心を捉えて離さない老舗旅館
まるも旅館は、国宝松本城の城下町としてレトロな雰囲気を保ちつつ観光地化している中町商店の途中から女鳥羽川のほうへ路地を入った先に建っている。
江戸~大正時代の蔵造りの建物が多く残る、蔵の町・中町通りらしい趣きのまるも旅館。今の旅館の建物は130年以上もの歴史があり、松本市内の国宝「旧開智小学校」を設計施工した大工棟梁、立石清重氏が手がけた作品だ。そんな建物に泊まるなんて贅沢な気分になる。
昔ながらの和風旅館のはずなのに、どこかモダンな雰囲気も感じる。
電話でしか宿泊予約が出来ない旅館でありながら、この旅館の建物の造りと館内の民芸品を体感したいと世界各国から客が訪れる。
チェックインのために部屋に入ると、笑顔のステキな女将さんが出迎えてくださった。チェックイン時に笑顔のステキな方が出迎えてくださる旅館は間違いなく良い旅館。
家具の町、松本を象徴する松本民芸家具
昭和初期のころ池田三四郎氏という職人により、全国から松本に集められ鍛えられた職人たちが作り出した「松本民芸家具」が多く使われている。これらを実際に見て感じたくて、まるも旅館に宿泊した
すごくカッコイイ椅子が、消毒液置き場として使われていてちょっと笑ってしまった。
旅館の中にある家具や調度品は、これが昭和の前半に作られたものなのかと思うくらいに、美しく洗練されたデザイン、堅実な作り、長年使いこんでいるからこそ味わいを感じる素材の艶。ずっと眺めていたくなるものばかりだった。
家具は少し重く、しっかりしていながらも手や体に馴染む感じ。実際に使ってみると心が落ち着くような印象を受ける。
宿泊部屋は、六畳一間の和室。柔らかな空間で落ち着ける雰囲気だった。部屋の中にある調度品もさりげなく松本民芸家具だ。それぞれの家具についてもっとしっかり写真に撮って残しておけばよかった。
地元・松本の落雁が茶菓子として置かれていた。宿の雰囲気に合う、上品な甘さで美味しかった。
階段の手すりも長年使われていることで角が取れて優しい感じになっていた。
お風呂も歴史感じる木製の浴槽でとても気持ちが良かった。
絶対に食べよう、朝ごはん
まるも旅館のもう一つの魅力が、喫茶スペースで素敵な松本民芸家具に囲まれながらいただく朝ごはん。この鮎の定食、すべてがめちゃ美味い。朝食に使われているこの美しい器は、沖縄発の人間国宝、金城次郎氏の作品。これで1泊6,600円なのだからありがたい。
デザートには地元のフルーツが盛り合わせでいただける。
宿に併設されている喫茶店「珈琲まるも」は超人気店。こちらも旅館と同じく、松本民芸家具を贅沢に使った空間で落ち着けるので、地元の方や旅情を感じに来る観光客に愛されているそう。営業開始時間には入店町の長蛇の列が店の前にできていた。
前述の松本民芸家具の創立者、池田三四郎氏が設計し、実際に訪れた柳宗悦氏が褒めたという喫茶店。こちらも堪能したいと思っていたが、その行列を見て泣く泣く入店はあきらめた。「私は宿泊してあの雰囲気をほぼ独り占めで味わったぞ」と謎の優越感に浸ることで、悔しい気持ちを抑えた。
まるも旅館は松本城観光に最適
まるも旅館は松本城へ徒歩ですぐに行ける立地も良い。歩いて5分少々で城門にたどり着ける。夜の松本城を気軽に見に行けて、朝は余裕をもって会場前に到着できるので、松本城を観光する際の拠点にするには最高の宿だった。
旅館で朝ごはんを食べて、ゆっくりしてから城に向かっても、少し待ったくらいで城に入ることができた。(松本城の開場は8時30分)
松本城は下から見上げても、天守閣から見下ろしても素晴らしい景色だった。
まるも旅館は、外観、玄関、部屋、風呂、食事スペース、そこにあるものすべてが丁寧に手入れされていて、古さを全く感じさせない艶を感じる旅館だった。そしてチャーミングな女将さん。すべてにときめいてしまう素晴らしい旅館だった。
女将さんがおっしゃるには建物の価値は、即文化財登録級だけれど、もし文化財に登録されてしまうと、訪れたお客さんに気持ちよく使ってもらためうお手入れや修繕が、気軽に出来なくなるから、あえて申請していないそう。
2021年7月訪問
「まるも旅館」について
アクセス :JR中央本線 松本駅から徒歩15分くらい
住所 :長野県松本市中央3-3-10
公式サイト:http://www.avis.ne.jp/~marumo/index-j.html