青森県の津軽地方には『客舎』と呼ばれる独特の宿がある。客舎とは長期宿泊の湯治客用に部屋と台所を貸すスタイルな自炊専門の宿。内風呂はなく、近くの共同浴場に入って体を癒す。
かつて客舎が複数集まっていた地域である、黒石市の温湯(ぬるゆ)温泉で現在、唯一残る客舎が『後藤温泉客舎』だ。
この宿は、江戸時代から150年以上の歴史を感じられる激シブの宿。予約手段は電話のみ。電話でしか予約できない宿だいすき!私が利用した時は、素泊まりで1名3,500円だった。
ゆっくり、体を癒すための宿
宿に到着すると宿の女将さんに、裏手に駐車場があるので、そこに車を止めるように言われる。しかし2月なのでまだまだ雪が残っており、マジで駐車場の場所がわからなかった。それらしき場所へ行くと、寒い中女将さんが誘導してくださった。女将さん、本当にありがとうございます。
雪で埋まった中庭。かろうじて勝手口の前の雪だけどかされている状況だった。これ、あのお年を召した女将さんが雪をどけているのか……?(これは宿泊翌日に撮影した画像)
宿を正面から見ると、このような感じ。平屋だが、とても大きく見える。
女将さんにまずは温まりなさいよということで、早速宿泊する部屋に案内してくれた。古さを感じるが綺麗に掃除されていた部屋には、すでに布団は敷いてくれていた。
最低限のものは揃っている設備に、くつろぐには十分な広さ。天井も高くて、開放感がある。
ふすまも年季を感じるが、それだけ大切に使われている証拠だ。三方向のふすまは、直接他の宿泊部屋とも繋がっているので、不必要に開けたりはしないように注意しよう。
水墨画が大きく描かれている。私に教養があったら、この絵についても楽しめたんだろうなあ。大学での水墨画の授業をマジメに聞いていればよかった。
布団を仕舞われた状態の部屋を見せてもらうと、こんな感じ。
女将さんから「美味しいりんごを用意しているから食べて」と言われて冷蔵庫を開けたところ、本当に美味しそうなりんごが2個も置かれていた。しかもナイフ付きで。本当にありがたい。夜食に一つ、翌日の朝ごはんに一ついただくことにした。
前述の通り、『客舎』とは、 長期宿泊して湯治をする客に対して、部屋と台所を貸すスタイルの宿。当然、広くて楽に使える台所スペースがあり、ここで自炊をすることができる。使用させてもらう場合は、予約時に自炊をする旨を女将さんに伝えておくべきだろう。
食器もそろっているので、食材さえ準備すればいい。
宿には風呂がないので、目の前にある温湯温泉の共同浴場『鶴の湯』を利用する。そもそもの入浴料が250円と激安だが、その入浴券までご用意していただいていた。
ほとんどの部屋が、外側に面している。障子を少し開けるだけで、外の様子が分かるのがいいね。助かる。廊下で靴を履いたら、すぐに外に出られる。
宿以上の歴史を誇る、源泉かけ流しの温泉
後藤温泉客舎がある温湯鶴泉(ぬるゆつるいずみ)という地域は、400年以上前に足の折れた鶴が草原に降りて、 7日間で回復して飛び去ったという言い伝えが残る『鶴の名湯 温湯温泉』がある場所だ。
宿の目の前にあり、宿のサンダルを履いて出た玄関から徒歩10秒で到着する、温湯温泉共同浴場(鶴の名湯温湯温泉)。似たような感じが並んでいるので、ぱっと見「ん?なんて読むんだ?」と思ってしまう。
券売機で入浴券を買っても250円。安い。
地元の方や湯治で長期宿泊している方がよく利用する浴場なので、シャンプーや石鹸、タオルなどは備え付けで置いていないので注意。有料のものを買おう。
温湯温泉は塩化物泉でサラサラとしていて気持ちいい。(めちゃくちゃ)熱めと少し熱めの温度が違う内湯が二つのみ。シンプルなので、やることは少なくて済み、ゆっくりと温まっていられる。体の芯からポカポカの状態で宿に帰ることができる。
温湯温泉には、温泉街の中心に共同浴場があり、それを囲むように客舎が建っていたらしい。それが今では後藤温泉客舎のみ。旅館としては共同浴場の周りに飯塚旅館、山賊館、三浦屋旅館、民宿利兵衛がある。これらの宿に宿泊している人たちも、共同浴場を利用したりする。(もちろん、宿に内湯もある)
浴場から部屋まで徒歩ですぐに移ることができるので、熱めの温泉に入り寒い外を少し徘徊し、温かい部屋に戻るという、体がポカポカしたまま寒い風にさらされて、落ち着く部屋でくつろぐ一連の流れが、なんだか気持ちよかった。クセになりそう。
湯上りには部屋でりんごをつまみに、道中で購入した青森の酒を楽しんだ。りんごも酒も、めちゃくちゃ美味い。
近所には遅くまで営業している商店やコンビニは無いので、宿に来る道中で事前に用意しておこう。
浴場は朝の5時から営業しているので、朝風呂も楽しめる。
翌朝、明るくなってから宿の中を少し見てまわった。古い建築の技巧や、装飾が使われていることはわかるが、知識のない私は、「古いままで綺麗に残っていてすごいな~。かっこいいな~。」くらいの感想しか出せなかった。インプットが少ないのでアウトプットも貧弱な自分が悲しい。
宿は全体的に古い。でも、不快に感じるところはまったくない。見るところ、使うところはキチンと整えられている。素晴らしい宿だ。
朝ごはんには、昨日から冷蔵庫で冷やしていたりんごと、工藤パンのスペシャルイギリストースト風。イギリストーストのジャリジャリ感だいすき!
朝の出発のときにも、女将さんはご丁寧に見送りをしてくださった。この宿でできることは、自炊とゆっくり休むことだけだが、それが本当にありがたく、5泊6日の旅程に組み込んでいてよかった。疲れが一気に取れた。
昭和にタイムスリップしたのか?と思うような町にある、江戸時代から残る宿。後藤温泉客舎はとても素晴らしい宿だった。
2021年2月訪問
「後藤温泉客舎」について
アクセス :東北自動車道 黒石ICから車で10分くらい
住所 :青森県黒石市温湯鶴泉23
予約 :電話のみ(0172-54-8318)
日本ボロ宿紀行